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星空の下で−5







翌日の日曜日。

二人は渋川伊香保インターから関越自動車道に乗り、休憩を兼ねてPAに立ち寄った。生憎の空模様のせいか駐車場はそれ程混雑していない。
「雨、やみませんね・・・」
普段から天気予報を見ることのない拓海は、昨日とはうって変わった天気を恨めしく思った。予報では『晴れ時々曇り』だったのに、厚い雨雲からは大粒の雨が降り注いでいる。
FCのフロントガラスを叩く雨は、やむどころかますます強くなっているような気がして、涼介は溜め息をついた。
「これじゃあきっと湯沢町も雨ですよね」
「そうだな。これじゃあ予定を変更するしかないかな」
今日の日帰り温泉プランは涼介が提案したものだった。男同士で行く温泉なんて恥ずかしい と断られるのではと思ったけれど、そんな心配を余所に拓海はあっさりOKしてくれた。むしろ着替えやタオルの方が心配なようだ。
・・・変なヤツだな・・・
肝が据わっているのか、無鉄砲なのか。バトルに対する姿勢の元は、この性格の表れなのかもしれない。
藤原拓海という人間を知れば知るほど離れられなくなる。
一人の人間にこれほど思考を奪われたのは初めてのことだ。
「せっかく涼介さんが計画立ててくれたのに・・・残念ですね」
「温泉ならまた行けるさ」
な、と涼介は拓海の顔を覗き込んだ。
拗ねた子供に言い聞かせるような素振りに、拓海はなんだか気恥ずかしくなる。
渋川を出発したときには小降りだった雨は、目的地である新潟県湯沢町近くまで来ると本降りになっていた。さすがに日帰り入浴歓迎の温泉旅館に行くには難しい雨足だ。
「さて、どこに行こうか」
「うーん・・・屋内とか・・・」
「却下だ。屋内施設は雨だと余計に混雑するからな。藤原も人混みは苦手だろう?」
「涼介さんもですよね?」
二人は顔を見合わせると苦笑した。
お互いに人混みが苦手だということは、今までの会話で承知している。
「人混みもダメですけど、雨の日のデパートとか、オレ・・・嫌いなんですよね。床とか変に濡れてて滑るし、湿気っぽいじゃないですか。そういう時って冷房が強すぎて変に寒いし」
「それはオレも思うぜ。駐車場も混むし、店の中に人が溢れてると無性に気分が悪くなる」
「そうですよね・・・。雨だから屋根付きの所に集まるの分かるけど・・・オレだったらそこまでして出かけないです」
「やっぱりオレ達は気が合うみたいだな」
涼介は目を細めて笑った。こうやって二人で会うようになってから頻繁に見るようになった笑顔だ。あまりにも優しい眼差しに今だ慣れることは出来なくて、拓海は真っ赤になって俯いてしまう。
「さて。目的地を変えるにしても人混みだけは避けるべきだな」
いつまでもPAに留まっているわけにもいかない。これ以上新潟方面に向かうよりは引き返した方が良さそうだ。
「えーと、あの・・・涼介さんちじゃダメですか?」
「え」
積極的とも思える拓海の申し出に涼介は目を丸くした。
いつかは家に招きたいと思っていたが、まさか拓海の方から言ってくるとは思ってもみなかった。二人きりで会うようになってまだ三回目だし、誘うにも目的地を設定したからこそ出来たのだ。
・・・藤原は何を考えているんだろう・・・
半ば強引に誘い出されているのに、断ることなく付き合ってくれる。人付き合いは苦手なように見えるのだが・・・。
「やっぱり・・・ダメですよね・・・」
沈黙を拒絶の意味と勘違いしたのか、拓海は顔を伏せてしまった。
「スミマセン、変なこと言って・・・」
肩を落として目を伏せる様子はなんとも愛らしい。おもわず顔の筋肉が弛んでしまいそうになる。
「涼介さん?」
拓海の申し出を断る理由は何もない。
それに、この関係を続けるべきかそろそろ判断する頃合いかもしれない。
有り難く拓海の申し出に従うことにした涼介はFCのキーを回す。
「オレの家で良ければいいよ。行こう」
そう答えるのと同時に、涼介はFCを発進させた。




・・・涼介さん、何考えてるんだろ・・・
前回喫茶店に行ってから、拓海はずっと気になっていた。
会話上手な涼介の突然の沈黙。
親しい間柄ではないから普段の涼介がどんな様子か知らないけれど、常に冷静なのだろうと思っていた。あの静かに伝わる感情の起伏は気のせいではないだろう。
それに涼介は、誘う理由がわからないと言っていた。もしかしたら本当の理由を言いにくかっただけかもしれない。
金持ちには理解不能な豆腐屋の息子の行動を知りたいのだろうか。
豆腐屋の息子だから庶民中の庶民だし・・・。ひょっとしたら大学のレポートにでもするのかも・・・
しかし涼介は医大生だ。そんなくだらない内容のレポートなんか書く必要もないはずだ。
・・・金持ちの道楽?
やさしくて頭の良い涼介が、自分を弄ぶなんてこともなさそうだ。
涼介の思考回路は分からないが、自分は涼介のことが好きだ。憧れの人と一緒にいられるだけでも幸せに思う。だから、涼介に誘われたらどんな場所にも付いて行きたい。
涼介が思っているのと同じように、拓海も 涼介のことを知りたい と思っているのだ。でも、だからといって『涼介の家に行きたい』だなんて。
・・・なんであんなこと言っちゃったんだろう・・・オレ、なんか変・・・
ガラス越しに流れる景色をぼんやり眺めながら、拓海は目を閉じた。



                                              つづく






今回は微妙に拓海サイド・・・。
どうやらもうしばらく続きそうです。


2004.08.21
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