| back 啓介の悩み相談室 金魚の住む部屋・おまけ 「そんなことで悩んでんの? バカだなー、お前って」 隣に座る人物の呆れたような呟きに、拓海は思いっきりムッとした。 ”悩み事があるんだったら聞いてやるぜ” その言葉に甘えて心中を洗いざらい吐き出したというのに。 公園の脇に停めたFDの中、運転席に座る啓介はあっけらかんと言い放った。 「そんな言い方するなんてひどいですよ、人が真剣に悩んでるっていうのに」 恨めしそうな視線を向けても啓介は平然としている。 「悩んだって仕方ねぇだろ、アニキが忙しいってのわかってて同棲始めたんだからさ」 「まぁ・・・そうですけど」 「あれ? 忙しいから一緒にいる時間を増やしたくて、同棲始めたんだっけ?」 「はい」 どちらもそう。 一分一秒でも長く一緒にいたいから今の暮らしを選んだ。 「バーカ。だったら尚更だろ。一緒に暮らして不満があるんだったら同棲なんてやめちまえよ」 「は?」 やめろだって? やめたくないから、不安だから相談したっていうのに! キレそうになるのを堪えつつ拓海は啓介を睨み付けた。 「どうやったってアニキの忙しさは埋められないんだぜ。離れてるのはイヤ、一緒に住んだら寂しかった、じゃあどうしろってんだよ。お前、四六時中アニキにくっついてるつもりか」 「そんなことしませんよ!」 「だったら、諦めろ」 「・・・・・・何を」 涼介さんのことを諦めろとでも言うのだろうか。 そんなの納得できないけれど、言われるのは辛い。 力を失った視線に、労るように微笑む啓介が映った。 「勘違いすんなよ。オレは”アニキに時間を求めるな”って言いたいだけだ」 「は?」 「お前はアニキを信じて待ってりゃいいの。会えるのが当然だなんて甘ったれたこと考えてないでひたすら待ってろ」 「そんなの・・・」 言われなくても信じてる。待ってる。いつまでもずっと、涼介が帰って来たくないと言っても、待ち続ける。 けれどそう心に誓っても孤独と不安は容赦なく襲いかかってきて、涙が出そうになる。 「・・・啓介さんは簡単に言いますけど、待ってるのは辛いんですよ」 あの終わることのない寂しさを思い出し、呟く拓海の声は弱く震えた。 啓介は小さくため息を吐く。 「じゃあアニキにそう言えばいい」 「もういいです!」 拓海はそう言い捨ててFDから降りた。 ドスドスと足を踏みならして運転席側に廻ると、身をかがめて開いた窓から顔を覗かせた。 「オレ、帰りますから!」 これ以上話を聞いてもらっても何にもならない、だからもう部屋に戻って涼介を待つことにする。 一人でいるのは辛い。でも、待つのが辛いだなんて、そんな子供みたいな我が儘を涼介に言えるわけがない。 「お前ってホント、バカだよなー。一言寂しいって言っちまえば少しくらいは改善されるだろ」 「だって言えないもんは言えません! 涼介さんに迷惑なんてかけたくないし・・・っ」 「そこがバカだっつーんだよ。恋人に気を使うなんてさ、そんなの恋人なんて呼べねぇんじゃないの?まるで他人同士だぜ」 「え」 啓介の言葉に心が少しヒヤリとした。 「他人?」 涼介と自分が他人のようだなんて、そんなことあり得ない。 ショックだった。 「あのさ、アニキが藤原に気を使ってんだとしたら、お前どう思うよ?」 「それは・・・イヤです・・・そんなの、やだ・・・」 「だろ? アニキだって同じ考えだと思うぜ」 「・・・そう・・・かな・・・」 「遠慮なんかするなよ。黙ってたらアニキだって”あいつはちっとも寂しがってくれない”とか言い出すぜ。そうしたら余計ややこしくなるじゃん。我慢するのと素直になるの、どっちかにしろよ」 拓海は涼介の気持ちになって考えてみた。 涼介だって好きで忙しくしているわけではないのだし、何も言ってこないのはおそらく後ろめたく思っているからだろう。 そんなふうに気を使われるのは、やはり寂しい。 「この際だからさ、思ってること全部、言ってみろよ。な?」 「・・・・・・」 でも、寂しいなんて言ったら涼介は時間を空けるためにもっとスケジュールを詰め込むだろう。 そんなことを望んではいない。涼介の負担にはなりたくない。 でも、我慢するのはもう疲れた。 (・・・じゃあ、ちゃんとそう言えば?) 拓海はようやく気がついた。 寂しいけれど我慢している。涼介の負担になりたくないから、待っている。思いのままを伝えれば心はもっと楽になるのかもしれない。 啓介の言いたいことは、おそらくこういうことなのだ。 「・・・話聞いてくれて、ありがとうございました」 拓海はペコリと頭を下げた。 「ん? ちょっとは楽になったか?」 「なんとなく」 「なんとなくかよ・・・ま、せいぜい頑張んな。アニキに不満が溜まったらオレが聞いてやるからさ」 「はい」 運転席から伸びた長い手が、宥めるように肩を叩いた。 「欲求不満でも連絡しろよ。そっちは特に大歓迎だからさ」 真っ赤になる拓海を見る啓介の目は、猫のように細く笑っていた。 「すぐそんな冗談ばっか言うんだから・・・」 黙って座っていれば、FDに収まる啓介はとてもカッコイイのに。 「なんだよー、オレはいつだって本気だぜ。嘘は言わねぇし、嫌いだ」 啓介の笑い声は明るくて、元気を与えてくれる。涼介のものとは対照的でいつも太陽のように暖かい。 その手の温かさに甘えてしまっては、いつかうっかり流されてしまうのではないかとも思う。 (ごめんなさい涼介さん!!) ふらりと湧いた浮気心(断じて違う!)を払拭するかのように、拓海は啓介の手を振り払った。 「もう、帰って下さい! 送ってくれてありがとうございました!!」 「はいはい、またな。じゃ、おやすみ」 啓介は軽く手を挙げてFDを発進させた。 ありがとうございました!! 手を振りながら心の中で感謝し拓海は歩き出す。 帰る先は涼介と暮らすアパート。 誰も待っていない冷たい部屋に帰るのは辛いけれど、涼介に同じ思いをさせたくはない。 涼介に会えることを祈りつつ、拓海は重い足を進めたのだった。 END 拍手お礼に書いたのですが、啓介の評判が良くてアニキピンチでした(笑)。 2005.02.17 web拍手送信完了画面用にアップ。 2005.05.25 サイト用に加筆修正。 |
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