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チョコレートを贈ろう (バレンタイン'05)
「お待たせいたしました」
差し出された紙袋を店員から受け取ると、涼介は軽く会釈して、その店を出た。
外気に触れた途端に強張る頬、そして白い息。先程とは比べ物にならない冷たさに、空を見上げる。
(雪、降りそうだな・・・)
店に入る前には青空さえ覗かせていた空は、いつのまにか灰色がかった厚い雲に覆われていた。この分では何時間と経たないうちに雪が降り始めることだろう。
雪は嫌いではないけれど、拓海と会う約束をしている日に吹雪かれるのはゴメンだ。特に、来週に控えているイベントだけは勘弁してもらいたい。ただでさえなかなか会えないというのに、年に一度しかない大切なイベントまで潰されては日頃の我慢が報われない。
(雪のバレンタインもいいが、せめて交通規制が布かれなければいいけどな)
そう思いながら一歩踏み出したところで、上腕に軽い衝撃を受けた。
「きゃ」
「危ない!」
涼介は咄嗟に手を差し伸べたけれど、小さな身体はレンガ敷きの歩道に豪快に突っ伏してしまった。
「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫です・・・」
答えはしたもののうつ伏せのまま動かない女性に、涼介は内心苦笑する。
(随分そそっかしいな・・・どこか、あいつに似てる・・・)
抱き起こそうかと涼介が地面にしゃがむと、女性は涼介の手を借りずに自力で起きあがった。
「あ、だ、大丈夫ですっ。ごめんなさいっ、ちょっと急いでて・・・」
顔も上げずに立ち上がると、急いたように何度も頭を下げる。涼介の顔を一度も見ようとしないのは、きっと恥ずかしいからだろう。
彼女はコートに付いた埃を払い終えると、涼介が出てきたばかりの店に逃げるように入って行った。
ショーケースを眺める彼女の後ろ姿をガラス越しに見て、涼介の心は少し温かくなった。声や身なりからして自分よりも年下だと思う。もしかしたら拓海と同じくらいの年頃かもしれない。
彼女もまた、好きな人にチョコを送るためにこの店を訪れたのだろう。涼介もそれが目的でこの店に来たのだ。
(あいつは買っただろうか)
涼介は、5歳年下の恋人の顔を思い浮かべた。
男同士の恋愛にバレンタインなんて関係ないかもしれないけれど、愛があるのだから性別は関係ないと思う。
ただ”どちらが贈るか”について考えると、ちょっと気分的にスッキリしない。女が男に贈ると一般的に言われているけれど、自分達の場合はどうなのだろう。
拓海が誕生日以外のイベントでマメだったことは一度もない。贈り物をすることが恥ずかしいのか、催促しないと貰うことが出来ないのだ。
(・・・・・・ダメだ、期待できねぇ)
年末のクリスマスを思い出して涼介は苦い顔をした。
確かに『付き合ってくれ』と告白したのは自分の方だ。付き合う以前から両想いだったとはいえ、先に好きだと伝えたのは自分なのだから、拓海に贈るのは当然かもしれない。
しかし。
ベッドの中で自分の愛を受けるのは拓海の方だ。女役と言ったら言葉は悪いけれど、そんな状況を考えたら拓海から贈ってくれてもいいのではないだろうか。
前回のデートで会話の中にバレンタインの話題をさり気なく混ぜてみたけれど、拓海は手応えのある反応を示さなかった。『女って大変なんですね』だとか『義理チョコでも貰えば嬉しいけど返すのは面倒臭いですよね』とか『涼介さんはいつもどうしてるんですか?ホワイトデーにお返ししてます?たくさん貰うから大変ですよね』とか、他人事のように言っていたのだ。涼介としては”チョコ、期待しててくださいね”とまではいかないものの”どこかにデートしましょうか”くらいのセリフを期待していたのだが。
(仕方ねぇよな、あいつ、そういうとこ鈍いし)
恋人という関係になったら当たり前のように貰えるはずのチョコレート。
拓海に期待する方が間違っているのだろうか。
本当のことを言ったら拓海からのチョコは”喉から手が出るほど欲しい”のだけれど、催促するのは格好悪い。
拓海の前ではいつも余裕ある大人でありたいし、望みがないのならホワイトデーに期待すればいいのだ。虚しさを心の奥に無理矢理押し込めて、涼介は駐車場に向かって歩き始める。
(あいつ、どんな顔するかな)
紙袋に印刷された金色のロゴ。可愛い拓海はロゴを読めないどころか店の名前すら知らないかもしれない。
(ま、あいつが喜ぶんだったらそれでいいか)
どちらから贈る物なのか、それもどうだっていい。
実のところプレゼントやチョコを買うのも嫌いではない。これをあげたら拓海は喜ぶだろうか、どんな顔をして受け取ってくれるだろうか。そんなことを考えながら品物を選ぶのは、結構楽しいものだ。
振り返ると、先程の女性が紙袋を手に店から出てくる様子が見えた。
デパートの地下、名店街の一角は甘ったるい香りで包まれていた。
どの洋菓子店もショーケースを飾っているのはチョコレートだ。
フェア開催中とはいえ、平日の昼間は学生の姿は見かけない。見掛ける客の殆どは大人のようで、真剣に吟味しているせいか売場は割と静かだった。
そんな中、キョロキョロしながら彷徨っている拓海はかなり目立つ。見るからに男だし、女連れではなく単身でチョコを眺めているのだから自然と視線を集めてしまうのは当然だ。
しかし、拓海本人はチョコを選ぶのに必死で他人の視線を気にしている余裕はなかった。
(こんなにたくさん種類があったら決めらんねぇよ・・・)
どの店も同じようなものが並んでいて、眺めてもなかなか決まらない。どの店が一番美味しいかなんて知らないし、丸いのや四角のチョコが違う箱に入ってるだけの差しか解らない。だからといってゴルフボールやパラソルみたいなものを選んだりしたら、安っぽいし、きっと笑われる。
(だいたい本命と義理の区別だってわからねぇし)
箱の大きさか? でも、チョコが6個くらいしか入っていないのに値段の高いものもある。
やっぱり値段で選ぶべきだろうか。
小さくても高ければ堂々と渡すことが出来そうだ。
(小さい箱だと安物だって思うかな・・・あ、でも涼介さんのことだからブランドとか知ってるだろうし、大丈夫だよな)
拓海はちらっと腕時計を見た。
(うわ、もうこんな時間・・・)
さっさと買ってさっさと帰ろうと思っていたのに5分近くもこんな場所にいたのかと、拓海は目線を上げた。
(あ)
自分をジッと見ている店員と目が合った。視線を横に向けると、年輩の女性がが探るような目で拓海を見ていた。
(やっぱ男がこんなとこにいたら変だよな・・・)
今までは選ぶのに夢中で視線なんか気にしていられなかったけれど、気付いてしまっては居心地の悪さにこれ以上耐えられそうにない。
拓海はそそくさと売場の一番奥に向かった。通路を曲がった場所にあるその店は死角になっていて、人目を気にしなくても良さそうだからだ。
(有名な店なのかな・・・でも味はきっとどこの店も同じだろうし、見栄えが良い物だったらいいや、適当に決めて帰ろ)
溜め息混じりにガラスケースを覗くと、他の店では見ることの無かった華やかな形のチョコが目に飛び込んできた。
(うわ・・・これもチョコかよ・・・)
薔薇の形をしたそれは、花びら一枚一枚がリアルに細工されていて本物のように立体的でキレイな出来だった。薄茶色や濃茶色の様々な大きさの薔薇のチョコが、白い楕円形の箱にビッシリ並んでいる。
(すげぇー、こんなの食べていいのかなー)
しゃがみ込んでまじまじと眺めていたら、ふと涼介の顔が頭に浮かんだ。
涼介と言えば白いFCが真っ先に連想するけれど、真紅の薔薇も涼介のイメージに重なる。
(懐かしいな)
涼介が贈ってくれた薔薇の花束。あれはバトルの申し込みに過ぎないのだけれど、涼介が拓海にくれた初めてのものだった。薔薇は枯れて捨ててしまったけれど、メッセージカードは今も机の引き出しにしまってある。
(これにしようかな・・・)
今度は涼介に薔薇を贈るというのも面白いかもしれない。
(いくらだろ)
と値札を見た拓海の顔が一瞬強張る。
(さんぜんひゃくごじゅうえん・・・・・・)
一瞬高いと思ったけれど、どの店の商品もこれくらいの値札が貼られていたと思う。バレンタインのチョコの相場はきっとこんなものなのだろう。
拓海は財布を取り出すと中身を確認した。
(・・・よし)
コンビニやスーパーのチョコは安くて千円あれば結構良い物が買える。でも、デパートで売られているようなチョコの相場なんか解らなかった。念のためにと一万円持ってきて正解だった。拓海はホッと胸を撫で下ろした。
(えーと、1,2,3,4,5・・・13個入って3150円かぁ。1個当たり・・・・・・・・・・・・・えーと、2ひゃく・・・うわ、やっぱ高ぇ)
チョコレート1個が200円以上するなんて拓海にとっては法外な値段だ。
(今更そんなケチなこと考えるなよ、オレ!)
拓海は自分に言い聞かせた。
(バレンタインなんだし! 涼介さんに美味いもの食べてもらいたいし!)
高いチョコなら不味いはずがないし、隣の10個入って5250円(しかもただの丸いチョコ)なんてものに比べたら格段に安い。
(もー決めた!)
拓海は立ち上がると店員に声を掛けた。
「これ、欲しいんですけど」
「あ、はい」
店員は拓海を見るなり驚いた顔をした。マスカラをたっぷり塗った睫毛がパチパチと何度も上下している。
(なんだよ・・・)
やはり男が買うなんて可笑しいのだろうか。
何となく気まずさを感じて、拓海は思い切って訊ねてみた。
「あの、男がチョコを買うって、そんなに変ですか?」
「あ、いえ、あの・・・」
拓海の質問に驚いた店員は、困ったように視線を泳がせた。それを見ていたのか、別の店員が慌てて拓海の近くに寄って来た。売場責任者なのだろうか。凛とした雰囲気の女性だった。
「お客様、こちらの店員が何か失礼でも?」
「あ、いや、その、そんなんじゃないんです。ただ、男の人がチョコを買うのって珍しいのかなぁって、気になったから・・・すみません」
(あー・・・オレってば変なこと言ってんなよ・・・おお事になっちゃったじゃん・・・)
ただでさえ恥ずかしい場所にいるのに、どうしてこんな質問をしてしまったのだろうか。拓海は心の中で考え無しな自分の性格に溜め息を吐いた。
「いえ、お客様が謝られるようなことではありませんよ。確かにこの時期にチョコレートを買われる男性の方は少ないですが、ご自分で召し上がるために買われる方もいらっしゃいますから」
「えーと・・・オレが食べるわけじゃないんですけど・・・」
正直に言うのもどうかと思ったけれど、ちゃんと言わないとラッピングしてもらえないかもしれない。
恥ずかしそうに答える拓海に、店員は満開の笑顔を浮かべた。
「贈り物ですか? 勿論、そういった方もよくいらっしゃいますよ」
(なんでそんな嬉しそうな顔するんだ?)
ニコニコと自分の顔を見てくる店員に奇妙な寒気を感じながら、拓海はショーケースを指差した。
「・・・この、バラのやつください・・・」
「あの子、好きな子に告白するつもりなのかしら?」
拓海の姿が消えたあと、売場責任者の店員はショーケースに飾られている薔薇のチョコを眺めて呟いた。
拓海にはああ言ったものの、実際は男性客がバレンタイン用にチョコを買う姿は滅多に見ない。ワンシーズンに二人いるかいないかといったところだ。
「いいわねぇ。バレンタインに男から告白されるなんて夢みたいよね。世の中の男達もあの子を見習ってくれればいいのに」
「ホント、私もそう思うわ。告白に性別なんて関係ないと思うし」
拓海を見て”男?”と驚いてしまった若い店員も、いざ冷静になってみれば拓海の行動にエールを贈りたい心境に変わっていた。女ばかりの売場に乗り込むなんて、余程相手のことが好きなのだろう。
「告白、成功するといいわね」
眉目秀麗な上に医者の卵という男の恋人が既にいることを知らない彼女たちは、拓海の恋が実るように薔薇のチョコに祈りを捧げたのだった。
涼介の予約したフレンチレストランでディナーを食べた二人は、涼介の自宅にやって来た。
心配していた雪は降ることなく、むしろ冬らしくない穏やかな晴天だった。と言っても社会人の拓海との待ち合わせはすっかり暗くなってからのことで、明日も出勤の拓海は数時間後には帰らなくてはいけない。
(やることもあるし、先に渡してしまおう)
涼介はリビングに着くなり用意しておいたチョコを拓海に差し出した。
「拓海、これ、お前に」
「え・・・」
リビングの暖房で温々していた拓海は、差し出された10センチ四方の包み見て首を傾げた。白い包装紙に茶と白の2本のリボンでラッピングされたそれにはハート型のシールまで貼ってある。
「これ、ひょっとして・・・チョコレートですか?」
拓海は包みを受け取りながら、間の抜けたような声をあげた。
「見ての通りだ」
「涼介さんが買ったんですか? 自分で?」
「そうだ」
「うわ、凄ぇ!」
拓海は目をキラキラさせて、ソファの脇に立つ涼介を見上げた。その様子に涼介は目を細めて笑う。
「どうしてそんなに驚くんだ。ちょっとオーバーすぎやしないか?」
「だって涼介さんがチョコ買うとこなんて想像できないもん。貰う方が似合うし、男がチョコ買うって恥ずかしいでしょ?」
ホントにオレなんかが貰っちゃっていいのかなー・・・拓海は箱と涼介を交互に見てブツブツ呟いている。
嬉しいのか嬉しくないのか解りにくい反応だ。
チョコを貰って嬉しいというよりも、涼介が買ったという所にポイントを置かれているように感じる。
”男が買うなんて恥ずかしい”と言っていることだし、やっぱり拓海はチョコを用意していなかったということなのだろうか。
(・・・予想はしていたけど、いざ貰えないとなると結構寂しいもんだな)
男同士のバレンタインはこんなものなのかと、涼介は軽い脱力感に襲われた。
「・・・いらないのか?」
「いえ、あの、欲しいですっ」
拓海は小箱を大事そうに膝の上に置くと、涼介が座れるようにソファの端に寄った。もともと一人分のスペースは空いていたのだが、これは拓海の恥ずかしさの現れなので悪い気はしない。
涼介は拓海に密着するように座ると顔を覗き込んだ。
「嬉しい?」
「うん。凄く」
珍しく素直な返事。
(・・・可愛いじゃねぇか)
いつになくニコニコ笑う拓海はもの凄く可愛くて、涼介の理性は危うく崩れ去ってしまいそうになる。
「涼介さんがくれるなんて、オレ、少しも考えていなかったんですよー」
予定外の出来事に、拓海は偉く上機嫌のようだ。
「正解だったな」
「何がですか?」
「オレ達は男同士だからさ、世間の常識は当てはまらないだろ。だから男のオレが男のお前に贈るのも良いんじゃないかって思ったんだ。でも、お前はどう受け止めるのか少し不安だったからギリギリまで悩んだんだぜ。買ったのは良いけど、渡さないほうがいいんじゃないか、とか」
「そんなの悩むことないでしょ。買ったんだったらちゃんとオレにくださいね。他の人にはダメですよ」
語尾にハートマークが付きそうな言い方に、涼介は少し困惑した表情を見せた。
「お前・・・何か妙にハイテンションだな」
「だってオレ、すごく嬉しくて」
箱を見下ろす拓海の横頬はほんのり赤く色付いている。
「涼介さんに告白されたみたいな感じがして、今、すっごいドキドキしてるんですよ。だから変なこと言っちゃうのかも」
へへへ、と笑う拓海は、もしかしたらワインの所為で酔っているのかもしれない。
こんなふうに笑ってくれるのなら”オレにはチョコをくれないのか”なんて格好悪い質問は出来ない。そんなことを言って拓海のご機嫌を損ねては、この先の楽しみが減ってしまう。
(機嫌がいいうちにさっさといただいてしまおう)
涼介の考えなど知らない拓海は、悩殺的な上目遣いで涼介の顔を覗き込んだ。
「これ、食べていいですか?」
「もちろんいいよ。でも、あとでな」
涼介は拓海から箱を奪うとテーブルの上にそっと置いた。チョコを入れてあるハート型の白陶器が割れたら、せっかくのバレンタインも台無しになってしまうからだ。
「ん・・・」
覆い被さるように唇を重ねると、拓海は素直に応じてきた。
拓海を愛おしいという気持ちと淡泊な恋人への不満、思いの丈が込められたキスに翻弄された拓海は、息も絶え絶えに涼介の腕に縋る。そして、震える手が、ゆっくりと背中に回った。
「感じたのか?」
「・・・別に」
涼介の問いに顔を真っ赤にした拓海は、背から手を離すとプイッと顔を背けてしまった。その様子がまたなんとも可愛らしい。
涼介はニヤリと笑うと拓海の背に腕を廻した。
「場所、移動しようぜ」
「うわっ」
突然の浮遊感。拓海は声をあげて涼介の背にしがみついた。キスの勢いでソファに寝転がってしまった拓海を、涼介は軽々と抱き上げたのだ。
「ちょっと涼介さんっ、何してんですかっ! お姫様抱っこなんてやだってば! 降ろして下さいよっ!!」
「落ち付けって、マジで落とすだろ。落ちたら痛いぞ、たんこぶどころじゃ済まないぜ」
「う」
涼介の言葉に拓海はすぐさまおとなしくなる。
今度は石像のように固まってしまった。
「バカ、今度は緊張しすぎだ。ったく、お前はオレに抱かれることだけ考えてればいいんだよ」
涼介は赤く染まった拓海のおでこにキスをすると、拓海を抱き上げたまま二階の自室へと向かったのだった。
「涼介さん・・・」
激しいセックスの後、どうにか涼介に服を着せてもらった拓海は、リビングのソファに横たわっていた。
「どうした?まだ辛いのか?」
「あの、そういうんじゃなくって・・・」
確かに体は怠いし腰は痛い。今日の涼介はいつになく強引で、拓海がしたことのない体位まで強要してきた。
(なんだかなー・・・涼介さん、たまってたのかな・・・)
こんなきれいな顔をした人があんないやらしいこと言ったりしたりするなんて。思い出すだけで顔から火が出そうだ。
(気持ち良かったからまぁいいや、それよりこれ・・・)
よろよろと体を起こした拓海は、ソファの影から紙袋を引っぱり出した。涼介に見付からないように持ち込んだ、チョコレートを入れた袋だった。
「先越されちゃったけど、オレだって涼介さんに渡そうって用意してたんですよ」
「・・・そうなのか?」
「涼介さんがチョコなんてくれるから、オレ、これのことすっかり忘れちゃって・・・遅くなってスミマセン・・・って、あー!!」
大声を出す拓海につられて涼介も壁掛け時計を振り返る。
振り子の付いた豪華なアンティークの時計。その針は既に0時を廻っていた。
「せっかく買ったのに、バレンタイン終わっちゃった・・・」
拓海はガックリと肩を落とした。
その細い肩を、涼介は自分に引き寄せる。
「バカ、日付なんか関係ねぇよ。お前からチョコを貰えるなんて、オレは世界一の幸せ者なんだから」
「じゃあオレも世界一」
と言ったところで、拓海の言葉は涼介の広い胸に埋もれてしまった。
END
バレンタインなのにお互いに”好き”だと言いませんでした。いいのか?
(きっとベッドの中で何度も言い合ったんだと思います。うん、きっとそうだ)
2005.02.05
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