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キレイ
「涼介さん・・・!」
Dの遠征の合間を縫っての久々のデート。
店先で涼介の迎えを待っていた拓海は、到着したばかりのFCを見ながら絶句した。
(な、なんか違う・・・!)
ガラス越しに見る涼介の顔、相変わらず格好良くて見惚れてしまうけれど、今回は顔が赤くなっただけではなく口まで開きっ放しになってしまった。
「拓海、一体どうしたんだ?」
突っ立ったままの拓海に痺れを切らした涼介が、FCから降りて近寄った。
「オレの顔に何か付いてるのか?」
拓海の視線は涼介の顔に釘付けで、穴が空くほど凝視している。拓海にまじまじと顔を見られるのは滅多にないことなので、涼介は思わず視線を外してしまう。いつも”オレを見ろよ”と要求しているのに、いざ見つめられると根負けしてしまうから不思議だ。
「こんなところで見つめ合ってたら怪しまれるぜ」
「あ」
涼介の言葉の意味を理解したらしく、拓海は慌てて周囲を見渡した。
歩道で井戸端会議をしていた豆腐屋のお得意さん達が、向かい合う二人を見てひそひそ話をしている。くるりと店を振り返れば、白い目をした父親が突っ立っていた。
「・・・おい拓海、店の前でちちくりあうのは勘弁してくれ。営業妨害だ」
「ちっ・・・って、何言ってんだよ、ばかオヤジっ!」
「ふん」
真っ赤な顔の拓海に冷ややかな一瞥を食らわせた文太は、長靴をドスドス踏み慣らして店の奥に引っ込んでしまった。その背中を睨み付けて、拓海はようやく涼介に向き直る。
「涼介さん、早く出掛けましょう!」
どうにも目のやり場に困る。
FCに乗り込んで以降、拓海は一度も涼介を見ていない。久しぶりの二人きりなのだから涼介の顔をじっくり見て(涼介に気付かれないように)涼介とたくさん話したい。それなのに、変に心臓がバクバクしてしまって無理だった。
昼食を取ろうと入ったファミレスでも、拓海は俯いたままで言葉も少ない。
「どうしたんだ? さっきは熱烈にオレを見てくれたのに」
涼介が溜め息混じりに言った。
「だって・・・」
確かにさっきは食い入るように涼介を凝視してしまった。自分でも珍しいことだと思う。
理由は分かっている。もちろん涼介もわかっているはずなのに、あえて訊ねてくるのだから意地悪だ。
「だって」
拓海はメニューに顔を隠したままふてくされたように呟いた。
「なんか涼介さん、いつもと違うんだもん・・・」
「どこが?」
「どこがって言われても・・・涼介さん知ってて訊いてるでしょ」
「いや、全然」
涼介はメニューを取り上げようとしたが、拓海は両手に力を入れてそれを防いだ。
「ちゃんと答えろよ。どこが違うか分からなくちゃ、オレも直しようがないだろ」
「直さなくて良いんです!!!」
「どこか気に入らないんじゃなかったのか?」
「いいんです、そのままで!」
「訳がわからねぇ」
「だって・・・キレイだから・・・」
(こんなところで言うなよ、オレ!)
と思ってももう遅い。
涼介はどんな顔をしているのだろうか。見るのも恥ずかしいので視線を横にずらすと、注文を聞きに来たウェイターが席の手前で立ち止まっているのが見えた。
(女の人じゃなくて良かった・・・)
いや、この場合男でも女でも関係ない。誰が聞いたとしても恥ずかしいことには変わりないだろう。
(恥ずかしい・・・)
このまま店から出てしまいたい。
縮こまってしまった拓海に反して、涼介は以外にも冷静だった。
「まぁいい。話はあとだ。とにかく頼もうぜ」
「はいっ」
涼介は何事もなかったようにウェイターに注文している。
(もう平気かな・・・)
チラリ と涼介を見てみるけれど、拓海の顔はやっぱり火照ってしまう。
(やっぱアレだよな・・・)
涼介の髪型が違う。
だからこんなにドキドキしてしまうのだ。
でも、分け目はそれ程変わってないような感じだ。
(おでこ・・・かな・・・)
目も鼻も口もみんな整っているくせにおでこまでキレイなんてずるい。けれど、涼介のおでこがキレイなのは既に知っている。シャワーの後によく見ているから、こんなにドキドキすることもないだろう。
(ダメだ、もう正視できねぇ!!)
おでこから視線をずらすと、じっとこっちを見る涼介の視線とぶつかった。
「拓海、百面相してないで頼めよ」
「あっ、スミマセンっ」
涼介のことばかり考えて、まだメニューすら決めていなかった。
拓海は真っ赤な顔をメニューで隠し、目に付いたものを適当に注文するのだった。
END
30巻の裏表紙に萌えた揚げ句に書いてしまいました・・・。
2004.12.02
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