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拓海の望み






自宅近くのコンビニでいつも通りの待ち合わせ。
これから涼介と会えるのだと思うと嬉しくて顔が弛んでしまう。
店内の時計は10時10分前を指している。待ち合わせは10時だけれど、はやる気持ちもあって9時半にはコンビニに着いてしまった。
時間を潰そうと、買うつもりもない雑誌を眺めていた拓海の瞳に一台の車が眩しく映った。駐車場に滑り込んできたのは恋人の白い車。
拓海は慌てて雑誌を棚に戻すと、ドリンクコーナーに向かい冷えた缶を手にする。
やっぱコーヒーだよな。
ブラックを美味しいとは思わないけれど、涼介が度々飲んでいるのを知っている。だからきっと喜んでくれるだろう。自分のカフェオレと見比べると、大人と子供の差を感じるけれど、本人達の見た目もその通りだから不思議だ。
「あ、袋いいです」
精算を済ませた缶コーヒーを手に、拓海は恋人の元へと急いだ。


「ありがとう」
涼介は拓海の差し出した缶コーヒーを受け取って相変わらずカッコイイ顔を弛ませた。
二週間ぶりに見る恋人の笑顔に、温もりを求めて抱きつきたくなってしまう。
けれどまだ明るい時間だし、コンビニの駐車場だし、自分にそんな大胆さはないし・・・結局拓海は微笑み返すだけで精一杯だった。

「あの、今日はどこに行くんですか?」
久しぶりに一日中涼介と一緒にいられる。二人でいられればどんな場所だっていい。
けれど、人混みや若い女の子が多いところはイヤだな、と拓海は思う。人混みは必要以上に疲れてしまうから苦手だ。それに女の子が多いところだと目立つ容姿の涼介は注目の的になってしまう。
どちらも涼介とゆっくり過ごすことの出来ない環境だ。
・・・オレってわがままだよな
涼介と付き合うようになって了見の狭い人間になってしまったようだ。こんな自分はちょっとイヤだけど、これが恋なのかと思えば楽しい。
「藤原は行きたいところあるか?」
コーヒーを一口飲んで涼介が訊ねてきた。彼にしては珍しく行き先を決めていないらしい。
「えーと・・・静かなところ」
「静かなところ?例えば?」
いざ考えてみるとなかなか思い浮かばない。忙しい涼介をゆっくりさせてあげたいけれど、涼介の家で一日中ゴロゴロしているのも少し寂しいかもしれない。
「・・・具体的に思い浮かびません」
結局こんな返答しかできない。それでも涼介は
「藤原らしいな」
と、楽しそうに微笑んだ。
・・・心臓に悪い・・・
何を言っても大人の余裕で笑いかけてくる涼介。その綺麗でカッコイイ顔に至近距離で微笑まれれば誰だってドキドキしてしまうだろう。
「じゃあ、オレが決めていい?」
「あ、はい。お任せします」
そうやって、拓海はいつも涼介にデートプランを任せてしまう。
・・・でもオレ、マジで思い浮かばないし
つい2ヶ月前まで高校生だった拓海には涼介が喜びそうなデートスポットは思い浮かばない。男二人で行けるところ、という条件に気を取られてしまうせいかもしれないけれど。
・・・こうやって会うだけでもすげぇ嬉しいんだよな
ずっと憧れていた涼介が、拓海の卒業式の夜に告白してくれた。2ヶ月しか経っていない今でも夢のようだ。
拓海の就職とプロジェクトDの始動と共に、涼介自身も医大生として正念場を迎えた。そのことで4月以降はなかなか会えない日が続いていたけれど、お互いに時間が取れればデートを重ねる。
ステアリングを握る涼介の横顔をチラリと見て、拓海は顔を赤くした。
あの唇にキスされて、綺麗な指に髪を梳かれて・・・。
一気に心臓がドキドキする。
・・・オレって進歩ないよな・・・
いつまでたっても涼介の顔を見れない自分が情けない。

外を流れる景色をぼんやり眺めていた拓海の耳に涼介の声が響く。
「着いたぜ」
「あ・・・」
気付けば涼介のFCは見慣れない駐車場に進入した。無機質なコンクリート造りの駐車場はやけに静かで車も少ない。
無言のまま車から降りる涼介の姿に拓海も慌ててシートベルトを外して降りた。涼介はFCの後部に・・・ナンバープレートの目隠しスタンドを立てていた。
・・・ひょっとして・・・
ナンバープレートを隠すような駐車場なんてあそこしかない。
「あの・・・涼介さん、ここって・・・」
「たまにはこういうのもいいだろ?」
涼介の形の良い唇が意地悪く歪んでいる。
「今日はゆっくりしようぜ」
肩に腕をまわされ、FCを停めた脇にある細い階段に向かう。拓海の思い違いでなければその先は・・・。
「だって涼介さん、朝からホテルなんてっ・・・」
フロントを通らずに駐車場から直接部屋に行けるタイプのラブホテル。涼介は無言のまま階段を昇っていってしまう。慌てて涼介の後を追うけれど、拓海の顔は赤いままだ。
ここには一度来たことがあるけれど、あの時は真夜中で暗かったし、それなりに心構えが出来ていた。
けれど。
・・・こんな明るい時間に入るだなんて・・・
「どうした?」
振り返る涼介の表情は、動揺している拓海とは正反対だった。
「フリータイムだからゆっくり出来るぜ。誰にも邪魔されないし、藤原の希望通りだと思ったんだが」
嫌か?
と、ドアにかけた手を止める。
その涼介の表情が少し悲しそうに見えて拓海は左右に首を振った。
「そんな・・・嫌だなんて・・・」
赤い顔を隠すように俯く拓海。そんな姿に涼介は満足そうだ。
残念そうな素振りを見せれば拓海は絶対に逆らわない。そのことを涼介は把握している。拓海は気付かないうちに涼介の策略にはまっているのだった。
「じゃ、決まりだな」
涼介はドアを開いて拓海の背をやさしく押した。
背に感じる涼介の掌の温もりを感じ、拓海はこれからの行為を思い浮かべる。
恥ずかしいと思いつつ促されるまま部屋に入る自分。
二人でいられればどこでも良いと思っていたのも事実だし、久しぶりに会った恋人に早く抱きしめてもらいたかった。
「好きだぜ、拓海」
カギを閉めた恋人が、大人の余裕で唇をさらう。触れるだけのキスだったが拓海の動揺はすっかり消えてしまった。
優しい涼介も強引な涼介も、どんな涼介も大好きだ。
愛されている、と思うとそのまま死んでもいいと思うくらい。
「お前の望むように抱いてやるよ」
・・・バカっ
絶句した拓海を見て盛大に笑う涼介の姿が嬉しい。普段滅多に笑うことのない恋人が、自分の前でだけ笑ってくれることが、拓海の自信に繋がっている。
こうやって涼介の笑顔を見ることが、拓海の一番の望みなのかもしれない。




                                                      END






本性はスケベな涼介。拓海の所為にして自分の欲望通りに動いてるようだ。
思い切り笑う涼介は可愛いだろうな。


2004.05.19


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