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バレンタイン '04 (涼介version)
出会ったときからずっと気になっていた。
秋名のダウンヒラー、パンダトレノのドライバー藤原拓海。
「兄貴、モタモタしてると他の奴に取られちまうぜ?」
啓介が人の気も知らないで、さらりと笑って言ったのは、つい昨日のことだ。
弟に言われるまでも無く、藤原拓海のモテ具合は承知している。女は勿論、あいつとバトルをした男達もその現場を見た奴らも、殆ど全員があいつにイカレてしまうのだ。
・・・もちろんオレもその一人だが。
涼介は整理されたデスクの上に置かれた小さな包みに目を向ける。
今日はバレンタインデーだ。
今までの涼介ならば世間の浮かれイベントには全く興味はなかったけれど、今年は違う。
片思い中の藤原拓海に恋人がいないのは確認済みだ。その隙をついて自分以外の誰かが先手を打ったらと思うといてもたってもいられない。
だから今日こそ行動に出ようと思う。
今日もいつも一緒にいる幼なじみと、例のガソリンスタンドでバイトに励んでいることも調べてある。
・・・しかしハタチを有に過ぎた男が、バレンタインだからとチョコを片手に同性を訪ねるのもどうか・・・しかも卒業を間近に控えた高校生に。
しかも自分は藤原拓海とはそれほど親しい間柄ではない。突然会いに行って贈り物をするだなんて奇行に気味悪がられたらと思うと安易に行動できない。
・・・考えてるばかりじゃ、何も先には進まないけどな。
少し弱気になった天才と称される男は、パソコン画面に視線を戻すと再びキーボードを叩き始めた。
結局、藤原の立場を考えた末、バイト先に押し掛けるのはやめた。
どう考えても、あいつは突然現れた俺に緊張してろくに話をしないだろう。それに、あの池谷とかいう男が変に騒ぎ出すことは間違いないし、あの小うるさい幼なじみはオレと藤原の間に入って場の雰囲気を台無しにするはずだ。
それ故に、日付が変わったこんな夜中に、計画を実行することにした。
バレンタイン当日にあいつが何個チョコを貰ったかは考えない。そう思っても最悪のケースをつい考えてしまう。
まだチャンスはあるだろうか。
どちらにしろあいつは今日も豆腐の配達に出かけるはずだ。
・・・2月の真夜中に秋名の山で男を待ち伏せるなんて、笑える絵だな。
涼介はFCの運転席で静かに耳を澄ます。
やがて、凍えたアスファルトを昇ってくるスキール音とヘッドライトが、もの凄い早さで通り抜けていった。街頭の消えた待避所に停められた涼介のFCに全く気付いた様子はない。
・・・相変わらずだな。
一瞬だけ見えた藤原拓海の横顔は眠そうで、可愛かった。
それ程間をおかずに再び下って来たハチロクは、車道に移動した涼介のFCに気付いてゆっくり停車した。
「・・・高橋・・・涼介さん?」
ドアから降りた藤原は寒そうに肩を震わせた。助手席に置かれたダウンジャケットの存在を忘れるほど緊張しているのがわかる。
「配達、ご苦労さん」
「はぁ・・・」
小さく開いた唇から白い息が寒々しく漏れた。
「寒いから簡潔に済ませるよ。これを、藤原に・・・」
手にしていた紙袋を差し出すと、藤原は首を傾げつつも受け取った。
「これ、何ですか?」
「家で開けてくれればわかる。貰ってくれ」
「はぁ」
・・・受け取ってもらえて良かった・・・。
心底ホッとした涼介はそう言うのが精一杯だった。
「じゃあな。バイトと配達、頑張れよ」
「はぁ・・・」
訳が分からない。そんな表情の藤原を残して涼介はFCを発進させた。
本当ならばもう少しこの場所で時間をかけて自分の気持ちを伝えるべきなのだが、この寒さの中引き留めるほどバカな奴にはなりたくなかった。
勿論、その場でフラれてしまうのではないかという恐れもあった。目の前で拒絶反応を示されるのは辛いものだ。告白されることは多くても、する事は初めての涼介にとって、告白自体勇気のいる決断だった。
高崎の自宅に帰るまでの間、頬を赤く染めた藤原の顔が何度も頭をよぎった。
あれは寒さのせいだったのだろうか。
翌日の昼に、ケイタイに藤原から電話が入った。生憎、大学の実習中だったために直接受けることが出来ず留守電でその声を聞いた。
『あの・・・オレなんかにあんな立派なものをありがとうございました。・・・大事にします。』
留守電はそれだけで終わっていた。その、かなり動揺した様子の声。
それはそうだろう。メモを入れるには入れたが肝心なことは書かなかったのだ。
それに、紙袋にチョコレートを入れることは出来なかった。チョコとは別に用意しておいたオーダーメイドの財布とメモだけだ。
自分の勇気のなさをとことん後悔する。藤原のこととなると、バトルに対する姿勢とは正反対に動いてしまう。
藤原がこの後何かしらの行動を起こしてくれるとは思えない。あののんびりした性格ではバレンタインの存在すら気付いていないかもしれないからだ。しかも自分は1日遅れに渡したのだし、藤原の性格を責める訳にもいかない。
結局オレはふられたのかすらわからなかったな・・・。
涼介はケイタイに残された拓海の声を繰り返し聞いては溜め息をつくのだった。
END
こういうネタはイベント当日にはアップしておくべきですね。遅くてスミマセン。
涼介不敗神話は拓海相手になると全敗なような気がする。
なつきは存在しないものとして書いています〜。涼拓道に女はいりませんね。
2004.04.05
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