イルミネーションの理由 (クリスマスの楽しみ方)
照明は甘い香りのするキャンドルの明かりだけ。
ツリーの飾り付けを終えた二人は、ムーディな雰囲気にセッティングされた涼介の部屋でくつろいでいた。
「寒くない?」
「大丈夫です。どっちかって言うと熱いくらい・・・」
トレーナーの襟元を掴んでパタパタ扇ぐ拓海の顔は、うっすらと赤く火照っていた。
時計の針は午前0時を廻り、甘い響きのイブから、どこか子供っぽい響きのクリスマスへと移り変わっていた。
小さなガラステーブルの上には食べかけのクリスマスケーキとオードブル。それを囲んで細身のワイングラスが二つ置かれている。
「酔ったのかな・・・」
そう言いつつも拓海はワイングラスを口に運んだ。
涼介が他県から取り寄せた赤ブドウのシャンメリーは既に空になり、続いて出された色鮮やかな液体がワイングラスの中で揺らめいている。アルコール度数の低いフルーツカクテルだった。
「飲み過ぎるなよ」
「また子供扱いして・・・」
本来ならワインで乾杯したかったけれど、拓海がワインよりもカクテルの方が好きだということを知っているからここは譲歩した。酔いが回ってクリスマスの夜のことを何も覚えていないと言われても困るし、不味そうに飲まれたら楽しくないからだった。
「ツリー、楽しかったか?」
質問に、拓海は口を尖らせた。
「楽しかったって言ってるでしょっ。もう、何回も言わせないで下さいよ」
「そうか」
涼介の満足そうな笑顔を見てしまえば、繰り返される質問も嫌な気はしない。
それに、拗ねた素振りを見せながらも涼介には感謝していた。戸惑っていた飾り付けも気付けば夢中になっていたし、いざ電飾を点灯してみると満ち足りた気持ちになったのだ。
涼介が誘ってくれなかったらツリーを飾る楽しみを知らないまま今年も過ごすところだった。
来年もこうやって過ごしたいな、と思う。意地悪な涼介のことだから”去年の藤原はこうだったな”と何度も言うだろうけれど。
「藤原」
「はい?」
拓海がグラスを眺めている間に、涼介は窓際に移動していた。
「こっちに来いよ」
床暖房と離れるのは名残惜しいと思いつつ素直に従う。
すると涼介は何を思ったのか、この寒い夜に窓を全開に開いた。
「見ろよ」
「うわっ、ちょっと涼介さん、寒いんだから閉めて下さいよっ」
「いいから、外を見てみろよ」
「う〜・・・」
渋々と涼介の隣に顔を並べて、拓海は窓の外に目を向けた。
「寒い・・・うわ・・・」
目一杯に飛び込んできたのは、キラキラと輝く淡い光の群れ。
その清らかな光の目映さに拓海は声を失った。淡いブルーと白いライトが高橋邸の広い庭を飾っている。
・・・キレイだ・・・
正直にそう思った。家の中から見るものと、外から見るものとではこんなに違う感動を得るものだろうか。
「今、見惚れただろう?」
白い光に照らされる涼介の顔が穏やかな微笑みを浮かべ、その慈しむような眼差しに拓海は素直に頷く。
「いつの間にこんな・・・」
「お前が来たときには電源を落としてあっただけだよ。本当は毎日こうやって見せびらかすように光ってたんだけど、藤原に嫌がられるのは困るしな」
「そうだったんですか・・・」
二階に上がるとき「先に行っててくれ」と言ったのはガーデニングライトのスイッチを入れる為だったのだ。
涼介に気を使って貰っていたなんて、なんだか申し訳なく思う。
「ウチの両親も見栄っ張りな人間でさ、わざわざ照明専門の業者に発注してるんだ。まったく、ここまでして光らせたいかな」
光をキレイに見せたいからこの時期は家の中まで暗いんだ と涼介は笑う。
「涼介さんのお父さんとお母さん、今日は見なくていいんですか?」
「一度見れば満足なんだよ。どちらにしろ、親父は病院、母親はパーティで忙しい人達だからな。毎年啓介と一緒に虚しいクリスマスを過ごしたな」
「やっぱり寂しいんですね、こういうの点けてても・・・」
どこか遠い目でガーデニングライトを見つめる拓海の頭を涼介のが小突いた。
「こら」
「痛てっ」
「お前はどうしてそうひねくれているんだ」
呆れたような物言いに、拓海の唇が再び尖る。
「だって・・・」
「確かにウチの家族みたいにバラバラな家もあるだろう。でも、そんな家ばかりじゃないんだ」
「・・・・・・」
「見栄や虚勢かもしれない。義務だからって渋々やる家もあるだろう。でも、家族ぐるみで楽しんでいる家だってある。子供のためだったり、自宅で出来ない人に見せてあげたかったり、誰かが感動してくれたら家主にしてみれば嬉しいもんなんだぜ」
この時期限定の輝きを求めて集って来る人達。
イルミネーション・スポットに行く時間を持てない恋人達。
この景色を眺めて心を温めて貰えたら、労力を費やしてセッティングする価値は充分にある。
「お前みたいに考える人も少なくないだろうけど、せっかくだから楽しく考えてみろよ」
「・・・ごめんなさい」
シュンとしてしまった拓海の肩に手を回し、そっと抱き寄せた。
「謝るなよ。別に責めてるわけじゃないんだ。ただ、お前に素直になって欲しいだけなんだ。キレイだと感じた瞬間を、恥ずかしがらないで大事にして欲しいからさ」
「涼介さん・・・」
抱き寄せられて布越しに伝わってくる体温が心地いい。
「ほら、見てみろよ」
家の前、手を繋いだ男女がイルミネーションを眺めていた。暗くて遠くて表情はよく見えないけれど、きっと感動しているのだろう。顔を見合わせて笑いあっているようだ。
「藤原」
「うわっ」
不意に抱きしめられ、拓海は涼介の顔を見上げた。良いことを思い付いたと言わんばかりの、なんともイタズラっぽい笑いを口元に浮かべている。
「幸せのお裾分け、してやろうぜ」
「・・・寒い・・・ですっ」
開け放たれた窓から隠れるように、拓海は自分の腕に顔を埋めた。背後から伸びてくる手がトレーナーの裾から進入し、胸元を探っている。冬の冷気が容赦なく肌に触れて、拓海は身を捩った。
クリスマスのお泊まり、確かにHなことを期待していたけれど、寒いのは嫌だ。視界の隅に映る広いベッドに早く逃げ込んでしまいたい。
けれど涼介は拓海の要求を聞き入れてくれなかった。
背後から抱きしめ、思うままに拓海の体を愛撫している。
「あ・・・」
長い指が両方の突起を捕らえ、微妙な力を加える。撫でたり摘んだりされただけで、普段は控えめなそこも存在を誇示してしまう。固くなると軽く弾かれただけで快感を生み出すのだから不思議だ。
「まだ見てる?」
涼介の問いに顔を上げ、道に目を向けた。
既にカップルの姿はなく通りには誰の姿もない。
「も・・・誰もいま・・・せん・・・」
「本当に?」
意地悪な右手がトレーナーから股間へゆっくりと移動する。
「やだっ・・・」
焦らすようにやんわりと揉まれて、拓海は堪らずに仰け反った。長い時間をかけて胸を愛撫されていたお陰で、そこはすでに熱を持っていた。じんじんと快楽の波が押し寄せてくるのを我慢しきれず、拓海は甘い声を漏らす。
「・・・あっ・・ん・・・」
「誰かに見られてたら困るだろ。ちゃんと確認しろよ」
だったらこんなところでするのは止めてくれと言いたいけれど、拓海にはそんな余裕は残っていなかった。
涼介に触られれば理性なんていうものはあっと言う間に崩れ去ってしまうのだ。どんなに抗っても無駄でしかない。
「ん」
仰け反った白い喉に噛み付いた後は、拓海の性感帯の一つでもある耳朶を容赦なくいたぶる。軽く噛んだり息を吹きかけたりするだけで、僅かに開いた唇から漏れる白い息。それは濡れている感じにも見える。
布越しに自身を弄られ、唇が耳からうなじに移動した頃には、拓海はすっかり抵抗する気力も失せていた。
パサリ
いつのまにベルトを外したのか、ズボンは下着ごと床に落ちた。
「・・・・・・っ」
露わになった下肢が寒さに引きつり、腿に添えられていた涼介の手が肌の変化に気付く。
「一気に鳥肌が立ったぜ」
楽しそうな声に、拓海は堪らず振り返った。
「そんな目で見られても止めないからな」
ピンク色の可憐な唇に触れるだけのキス。
「どうして・・・こんなとこでなんて・・・」
息も絶え絶えに抗議の声を漏らしたけれど 「内緒」 と涼介は意地悪く笑っただけだった。
「・・・そんなのひどいです」
寒さのあまり半分萎えてしまったそこに手を添えると、細い肩が小さく震えた。その反応の良さに涼介は苦笑する。
部屋の中での拓海は恥じらっていて可愛い。
けれど視線を感じるような場所での拓海は、もっと扇情的で反応も良い。
そんなことを教えてしまったら、恥ずかしがってもう二度と隙を見せてくれなくなるかもしれない。
だから内緒。
しばらくの間左手で胸、右手が拓海を弄っていると、拓海が泣きそうな声で言った。
「・・・寒くてオシッコ行きたくなっちゃう」
さすがの涼介も愛撫することを忘れて考えてしまう。
そういったプレイは範疇外だし、拓海の自尊心を傷付けるようなことは避けたい。
「仕方ないな」
涼介は左手で窓を閉めた。
激しく上下に擦られて破裂しそうな硬さになったそこは、支えるものをなくしても自力で立ち上がり、ふるふると終わりを求めている。先端から流れた透明な液体を細く長い指が拭い、二つの丘の間に塗り込んでいた。
「あ・・・」
過去に何度となく涼介を受け入れたそこは、この先にある快楽を知っている。拓海が抵抗しても否応なしに応じ、柔らかく解れていく。
「ん」
そうやって丹念に押し広げられた秘所に、熱い塊の先端が触れた。
「ちょ・・・いきなり・・・て・・・」
まさか指で慣らさずに入ろうというのだろうか。そんな経験は皆無だ。いくら体を繋いでも、指による慣らしがないと怖い。
拓海は涼介を振り返る。
窓を閉めた後も相変わらず涼介はベッドに移動しようとしなかった。この際それはどうでもいい。後ろからされてもいい。
けれど。
「りょうすけさん・・・そんなの、イヤです・・・」
「じゃあ何をして欲しいんだ? 何でどうして欲しい? ほら、言ってみろよ」
分かってるくせに。
恨めしそうに睨んでも、涼介は素知らぬ顔をしている。
「・・・・・・」
言えるわけがない。
アレであそこをこうしてからそれをどうして欲しいなんて、言えるわけがない。
黙っていたら涼介の先端が、秘所を押し広げようと進んできた。
いくら潤っているとはいえ、進入してくるものの大きさに耐えられるような場所ではない。初めてしたときの避けるような痛みを思い出し、秘所は固く涼介を拒む。
「力を抜かないと痛いだろう」
「無理っ」
横暴な要求をしてくるくせに優しいなんてズルイ。拓海は首を横に振る。
すると、萎えかけていたものを再び握られてしまった。
快楽に集中していなかったとはいえ、いざ扱かれれば硬度を増すのは早い。拓海はすぐに喘ぎの声を漏らした。
「あっ・・あっ・・・もぅ・・・」
「もう何?」
「もぅダメ・・・ガマンできない・・・っ」
このまま扱いて貰えれば、大きな快楽の波がやってくる。そうすれば楽になれるのに。
「・・・あ・・・・・・」
拓海の失望の声。
涼介はまたも手を動かすのをやめたのだ。
「イキたかったら自分でやってみろよ。見ててやるから」
「そんな・・・」
「それが嫌だったらここをどうして欲しいか言うんだ」
「・・・・・・」
命令口調で言われると、拓海はそれ以外の手段を思い浮かべることが出来なくなる。Dにおいての関係はプライベートな面にも影響を及ぼしていた。
強引な選択肢を真剣に考える。
「どうする?」
涼介は意地悪く前と後ろの両方を撫で上げた。
ざわざわと襲ってくる快感の波。早く終わってしまいたいと抑えられない欲望が脈打っている。
自分で処理するのと懇願するのとではどちらがいいのだろう。
気持ちよさで言ったら涼介にして貰った方が数倍いい。
「ゆ・・・指」
「指がどうしたんだ?」
大きな手が拓海の右手を捕らえ、涼介の口元に運んだ。中指と人差し指の先を舐められ、湿った音が部屋に響いた。
堪らず拓海は言葉を続ける。
「入れて・・・ください」
「どこに?」
「・・・ここ」
お尻にある涼介の手をり、快楽を求めて止まない場所に促した。
「わかった、じゃあ、拓海の指を入れればいいんだな?」
「・・・?」
「今、湿らせただろ、お前の指」
拓海は涼介に握られた自分の右手に視線を向けた。唾液に濡れた自分の指が、窓の外からの光に照らされて、卑猥に映る。
「そんなの絶対無理です!」
自分の指を自分のあそこに入れるなんて!!!
恥ずかしいのを我慢してせっかく言ったのに、と拓海は涙を目に浮かべた。
「じゃあオレに解るようにもう一度言って」
涼介は拓海の指を解放し、背中から抱きしめた。
「・・・うう・・・」
抱きしめられると素直に頷いてしまう。
どんな理不尽なことも涼介の温もりには敵わない。
こんな時どうされたら自分が落ちるのか、涼介は知っているのだ。知っていてやるのだからとことん意地悪な性格だと思う。
拓海は意を決して懇願した。
「涼介さんの指を、ここにいれて下さい」
「うーん、ちょっと足りないな」
涼介は言葉を濁した。 ここ、ではなく お尻の穴 と言わせたいのだろう。
それを瞬時に理解した拓海は、こんな時でもえらくカッコイイ恋人の顔を睨み付けた。
これ以上催促するのは嫌だ。ここまで言っておいて自分で処理するのもゴメンだ。それだったら中途半端で気持ち悪いけれど、パンツを履いてしまったほうがいい。
「・・・わかったよ」
無言の拓海から怒りを感じ取ったのか、涼介は苦笑した。
涼介の指は拓海の体液で充分湿っていた。
「んん・・・っ」
秘所にあてがうと滑らかに入っていく。拓海もまた、歓迎しているかのように締め付けて、催促する。
「や・・・ああ・・・ん・・・・・・」
解すように内部で動かし、2本、3本と指の数を増やす。やがて充分に解れたところで涼介自身が進入してきた。
「拓海・・・」
「りょ・・・すけさ・・・」
指とは比べものにならない質量が生み出す圧迫感。涼介の熱に溶けそうになる肉体。
立ったまま、後ろからの挿入に、壁に突いた拓海の両手が戦慄いた。無意識に腰を突きだし涼介の進入を強請ってしまう。
拓海は後ろから責められるのに弱い。そんなことを涼介に言ったことはないのだが、多分、涼介は知っている。後ろからされると顔が見れなくてイヤだと思うけれど、快楽だけで考えたら獣じみた接合の仕方は絶対的だ。体の一番奥まで貫かれて耐えきれず、嬌声をあげてしまう。
それくらい強烈な快感。
「気持ちイイ?」
抜き差しを繰り返す涼介の声も上擦っている。
それもまた快楽を増すための道具でもある。拓海はコクコクと何度も頷き、間もなく訪れる放出に集中するのだった。
ぐったりした拓海を抱えて、涼介はベッドに倒れ込んだ。
質のいいスプリングが二人を迎え、小さく軋む。
「手」
拓海は涼介の手を掴み、天に翳した。
拓海の性を受け止めた手は、いつも通りきれいだった。拓海が放心状態の間に舐め取ってしまったのだろう、きっと顔を寄せたら生臭いはずだ。
「・・・汚いからやめて下さいって、いつも言ってるのに・・・」
「もし今手に付着したままだったら、オレはすごく格好悪いと思うんだが」
疲れ切った恋人を抱え、精液の付いた手を気にして・・・たしかに間抜けな感じがする。
だったら。
「先にティッシュを準備しろなんて言われても却下だからな。お前に警戒されるだろ」
先読みされた拓海は、剥き出しの足に涼介の温もりを感じた。湿りを帯びた独特の弾力。
「そんなこと言ったって涼介さん、ズボン履いてるけどアレは出しっぱなしだし、充分格好悪いですよ」
「下半身丸出しのお前に言われたくないな」
顔を見合わせてくすくす笑う。いつもの、幸せな時間。
他愛もないことを話して微睡んでいると、涼介が思い出したように訊ねた。
「イルミネーションも悪いもんじゃないだろ?」
窓に写る光の影をチラリと見て、拓海は小さく頷いた。
「来年は、いろんな所に見に行きたいな・・・」
二人で過ごす初めてのクリスマス。
来年はどこか他の場所で光を眺めて過ごすのもいいかもしれない。
勿論、この部屋でもいい。二人きりで過ごして、たくさんの新しいことを発見していきたい。ツリーやイルミネーションも、涼介と一緒に楽しみたいと思う。
「メリークリスマス、拓海」
口付けが額に降る。
その口元がニヤリと歪んだ。
「じゃあ第2ラウンド開始といこうか」
END
相変わらず温い裏でゴメンナサイ・・・。
やっぱり窓開けっ放しは寒いですよね。拓海、オシッコ大丈夫だったんでしょうか・・・。
2004.12.25