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マッサージ −3






(うう・・・)
 マッサージを受けた一週間後、拓海は再び涼介のベッドに横たわっていた。
涼介の話によると、拓海の肩こりは予想以上に酷かったらしく、結果マッサージを定期的に行うことになったのだ。本当は断りたかったのだけれど、心配してくれる涼介の気持ちを無駄にはしたくなかった。
今回も涼介は念入りにマッサージしていく。
くすぐったいのは前回と変わらない。けれど、今回は不思議に思うことがあった。
前回と同じ所を同じように触られているのに、どういう訳かくすぐったさが増しているように思えるのだ。
(・・・あっ・・・)
ビクリと筋肉が収縮する。枕に埋めた拓海の顔は真っ赤だった。
ダメなところは本当にダメだ。
軽く触れられただけで反応する、痛みによる収縮とは違うそれに、涼介だって気付いているはずだ。
「悪い」
頭上から降ってくる心配症な声を安心させたくて、拓海は白状した。
「いえ、あの・・・痛くありません。でも・・・くすぐったくて・・・スミマセン」
 涼介の手が拓海の頭をポンポンと叩く。慰めにも似たその感触に、体中の緊張が抜けていく感じがする。
「マッサージを受けてくすぐったくなるのは当たり前だと思うぜ。平気だったら不感症だな」
「はぁ・・・」
「恥ずかしがるなよ。・・・まぁ、イヤならやめるけど」
「あっ、そんなつもりじゃ」
「気持ちよくない?」
「いえ、気持ちいい・・・です」
「じゃあ続行していいんだな」
「・・・はい」
 涼介が医者になったら患者は困ってしまうだろう。格好良い上にマッサージまで上手なんだから反則だ。
(でも普通病院じゃマッサージなんてしないよな・・・)
 自分は得をしているのかもしれない。
「くすぐったかったら我慢しないで声を出せよ。気楽にしていた方がリラックスするからな」
「はい」
 拓海の返事を合図にマッサージは再開された。
(やっぱりギブアップしておけば良かったかも・・・)
 我慢するなと言われても、拓海はやはり我慢していた。気を抜いたら変な声を出してしまいそうだからだ。
「やはり広背筋は酷いな・・・先週と変わらないぜ」
 力任せに押すことのない涼介の優しい手は、背中を丹念に揉んでいる。
「でもオヤジの手伝いは終わったんですけど・・・」
「仕事の疲労もあるんだろう」
確かに肉体的にも厳しい仕事をしている。慣れない道を走る緊張も関係しているかもしれない。
「ほら、ここも」
「う・・・」
腰の辺りを押されると、確かに痛い。でもそれだけじゃなく、微妙にムズムズする。
「大殿筋よりも中殿筋の方が凝ってるようだな」
筋肉の名前はよく分からない。涼介が揉んでいるのは腰骨の辺りから尾てい骨の間の、両方の尻だ。恥ずかしいと思うのは、やはり揉まれている自分だけのようで、涼介は実に冷静に分析している。
(でも・・・こんなの啓介さんにもしてるのか?)
 気のせいかもしれないけれど、涼介の手の動きはマッサージと言うよりもどこかいやらしい。拓海の体が跳ねたポイントを丁寧に・・・しつこいくらいやんわりと揉んでいるような気がするのだ。
尻の下、足の付け根を強く押されて、ビクリと体が震えた。
(やば・・・)
 自分の思いこみかもしれない。でも、そう考えてしまってから、身体に変化が生じていた。
拓海は深くクッションに顔を埋める。
(どうしよう・・・)
股間に熱が集まっていく感じがする。これは多分ひょっとして、ひょっとしなくても・・・。
これはただのマッサージだ。
そう自分に言い聞かせるけれど、体は言うことをきかない。
 涼介の手は腿から脹ら脛に移動して、丹念にマッサージしている。筋肉が解されていく感覚は病みつきになってしまいそうだ。このまま眠ってしまうのも悪くないとも思う。
だが、体は明らかに快感を追っている。やはり自分だけが変に意識しているのだ。
(こんなんじゃ起きあがれねぇ・・・)
涼介の前で、よりによって男の生理現象が起きてしまうなんて。
「じゃあ仰向けになってもらおうか」
 拓海は耳を疑った。
「え」
前回はここで終わったのに、仰向けになれ だなんて。
顔を上げることすら出来ない拓海に涼介は疑問を感じたようだ。
「どうした」
「いえ・・・」
寝たふりでもしておけば良かったと思っても遅い。
股間を手で隠したら逆に変なやつだと思われてしまうだろう。Tシャツは脱いでしまったから自然に隠すことは出来ないし、今日に限ってジーンズはスリムタイプだし、このまま仰向けになれば張りつめた股間を涼介に晒すことになる。
(マジでどうしよう・・・)
「アニキ〜」
拓海が必死で打開策を考えていると、ドアが開く音がして呑気な声が聞こえた。声の主は啓介だ。
「アレ?藤原もいたのかよ」
「お邪魔しています・・・」
『挨拶は相手の顔を見て』がポリシーの拓海は、律儀にも頭だけ動かして挨拶する。
啓介は部屋の入り口に立ったまま拓海の格好を眺めていた。ニヤニヤとイタズラっぽい笑みを浮かべている。
「お前何してんの? 顔真っ赤だし」
「見て分からないのか?マッサージだ」
拓海が答えるより早く、涼介がイライラした調子で言った。
「それより部屋に入る前にノックしろっていつも言ってるだろ。大体今日は帰って来ないんじゃなかったのか?」
 そういえばFDはFCと並んでガレージに収まっていたけれど、涼介が『啓介は朝から出掛けて留守なんだ』と言っていた。先週来たときも留守だったし、大学生は暇で良いなと拓海は羨ましく思う。
「それで。何の用だ?」
「わりぃ。でもさ、ちょっと訊きたいことがあってさ。FDのことなんだけど・・・」
「FDの?」
 涼介の目つきが鋭いモノに変わる。家にいてもやはり涼介に頭の中は車のことで一杯なのだろう。
「気になったらいてもたってもいられなくて帰って来たわけ。とにかくさ、オレの頭じゃ結論が出なくてさ」
(啓介さん、凄いな・・・)
 車のことが気になって帰ってくるなんて、さすが涼介の弟だ。いい加減そうに見えても、啓介は常に勝つことを考えているようだ。同じDのドライバーとして見習うべきだろう。 
「・・・今じゃなきゃダメか?」
 涼介は横たわる拓海を振り返る。一人で放っておくわけにもいかないと気に掛けているようだ。
「急ぎってわけじゃねぇけど・・・連れを待たせてるんだ。今そこのコンビニで待ってもらってる」
 友達が待っているのなら、啓介を足止めするわけにはいかない。
(それに、涼介さんが部屋出てってくれると助かるし・・・)
 二人の動向を眺めていた拓海は涼介に笑いかけた。
「あの、涼介さん。オレはもういいですから啓介さんの話聞いてあげて下さい」
「藤原・・・しかし」
 後ろ髪を引かれているのか涼介は困ったような顔をしている。そんな兄の肩に腕をまわし、啓介は猫撫で声を上げた。
「藤原もこう言ってることだしちょっと外に来てくれよ、なぁアニキ」
「・・・わかった」
しぶしぶ頷いた涼介を、啓介が強引に引っ張って行く。涼介はどういう訳か恨めしそうな顔で振り返ったけれど、拓海は内心それどころではなかった。
足音が完全に聞こえなくなってからゆっくり体を起こす。
見つからないように窓からそっと外を覗くと、手入れの行き届いた広い庭を歩く二人の姿が見えた。その先にはガレージがある。FDのボンネットは既に開けられていた。
どうやら啓介の話は長引くと思われる。
(良かった・・・啓介さんに感謝しなきゃ・・・)
 涼介が戻るまでにこの状態をどうにかしなければいけない。視線を移動するとやはりそこは大きく膨らんでいた。
放っておけばやがて小さくなるだろうけれど、それまでに涼介が戻って来てしまったらまた「仰向けになれ」と促されてしまうかもしれないのだ。情けない姿を晒すことだけは避けたい。
だったら今のうちに処理してしまえば問題ない。
余所の家のトイレでこんな事をするのは申し訳ないし恥ずかしいけれど、そうも言ってはいられない。自分のベッド以外で抜いた経験はないけれど、今回は非常事態なのだ。
「・・・トイレ借りよ」
二階にもトイレがあったはずだ。
拓海はこそこそと廊下に出て行った。

                                 

                                                   END






こんな終わり方でスミマセン;;
記念すべきD1冊目はギャグだったんですね・・・お恥ずかしい
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