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マッサージ −2





数日後の土曜日。

高橋邸のリビングで涼介の簡単な問診を受けた拓海は、涼介の後について二階への階段を昇った。
「入れよ」
涼介の部屋に入るのは初めてのことだった。エアコンが利いた部屋は夏の暑さとは無縁な空間で、モノトーンを基調としたインテリアは涼介のイメージと重なる。
「藤原」
ぼんやり部屋を観察していた拓海は、ベッドの脇に立つ涼介に手招きされた。
涼介のベッドはセミダブルだろうか一人で眠るには大きすぎるサイズだ。しかもマットレスは分厚く、純白の肌掛けはとても柔らかく軽そうに見える。自分の組立式パイプベッドとは比べモノにならない高級感だ。
(すげぇ気持ちよさそう・・・涼介さんの匂いがしそうだし・・・ここで寝てみたいな)
そんなことを考える自分が可笑しくてたまらない。
 布団が好きなのか、涼介のことが好き・・・なのか。
(何考えてるんだ オレ!)
 涼介を好きだなんて少しでも考えるなんて。
一人で押し問答している拓海を、涼介は不思議そうに見下ろしていた。
「藤原?」
 間近で呼ばれて拓海は顔を上げた。するとしっかり目が合ってしまった。涼介の瞳は漆黒で、目が合うだけで吸い込まれそうな感覚に陥る。
(好き・・・なのかも・・・)
 明るい場所で涼介を見たのは久しぶりだ。しかも至近距離で。
 涼介の整った顔はあまりにも格好良くて正視していられない。拓海の顔はみるみるうちに赤く染まる。
「どうした?」
「あっ、別に何でも・・・」
「じゃ、横になってもらおうか」
 黙ったり赤くなったり、明らかに挙動不審な拓海を気にした様子もなく、涼介はベッドを示した。
「えっ? ここに?」
「マッサージするんだから当たり前だろう」
「マッサージ?」
(涼介さんが?)
「肩こりは肩だけ揉めばいいってわけじゃないんだ。全身のバランスが関係しているんだ」
(どうしよう・・・なんか恥ずかしいな・・・)
「大抵の肩こりの原因は姿勢による筋肉への負担や運動不足なんだ。自然に回復すればいいが下手をすると慢性化するからな。本当は適度な運動をすれば予防できるんだがそんな暇はないだろう?」
話の内容ははそれ程難しくはないだろうけれど、拓海の頭には全く入ってこない。マッサージのことだけで頭の中は一杯だった。
拓海はただ黙ったまま こくり と頷くことしか出来ない。
「心配するな。血行を促進すれば良くなるから」
な と同じ目線の高さに屈んでくれる涼介は、Dの時とは別人のように優しい。こんな涼介を見ることが出来るなんてまるで夢のようだ。
(オヤジに感謝しなきゃ・・・)
 嫌々やっていた手伝いも、こういう結果なら損ではない。
「じゃあ服を脱いでうつ伏せになって」
「服、脱ぐんですか?」
ああ。筋肉の場所がはっきり分かるから、その方が効果があるんだ」
マッサージは服の上からやるものだと思っていた。医大に通う涼介が言うのだから問題はないのだろう。
「えーと、あの、ズボンは・・・」
「ズボンはいいよ。あ、ベルトは取った方がいいかな」
恥ずかしがる拓海を見て涼介は笑った。Dの活動時には見ることのないリラックスした笑顔だ。妙な気恥ずかしさを感じつつ、Tシャツを脱いでベッドに横たわった。
涼介はどんな風に自分の体を眺めているのだろうか。
ごく普通に見ているだけだろうけれど、涼介の視線を意識するだけで体中が落ち着かない。
「ここは痛い?右の方が凝ってる感じだけど」
少しヒンヤリとした手が両肩に触れた。左右同時にギュッと筋肉を軽く揉まれる。涼介の言う通り、右の方が痛い。
「はい。右の方が痛い・・・です」
涼介の指が少し触れただけでドキリとする。くすぐったいようなゾクゾクするような不思議な感じだ。
「じゃあここは?」
次は肩胛骨の下の辺りを押された。途端に触れられた筋肉が強張る。
「あ、そこも右が・・・っ」
 痛い と言おうとしたけれど、揉まれた途端、反射的に呼吸が止まってしまった。
「どうした?」
頭上から心配そうな涼介の声が降ってくる。けれど、くすぐったいなんて格好悪くて言えない。我慢すれば慣れるかもしれない。
「なんでもありませんっ」
 拓海は平然を装った。強がっても意味はないだろう。でも、涼介の前で醜態を晒すのはイヤだ。
「強く押しすぎたか?痛かったら言えよ」
「はい・・・」
ドキドキしているのは自分だけのようで、涼介はいつもと変わらない。啓介へのマッサージでこういった反応には慣れているのかもしれない。
(早く帰りてぇ・・・)
一人で勝手に恥ずかしがって、あまりにも惨めだ。早くマッサージが終わるのを祈りつつ、拓海は涼介に身を任せるのだった。



                                                   つづく





文法滅茶苦茶ですが、修正するの我慢しました;;
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